「探究」という言葉の魔力

寝ずに宿題する子どもたち 動画編集に理科の考察…「探究型」が重い(朝日新聞 5月25日)

〇都内の私立高2年の男子生徒には、動画提出の宿題が出される。
例えば、国語で読んだ教材のあらすじや理科で習った内容を、
2〜5分以内の動画にして提出する。アニメーションやBGMも入れ込む。
できばえが成績に大きく反映されると先生から説明を受けたからだ。
ただ、動画の作り方の説明はなく、学校のパソコンは容量が小さいために動画編集がしづらい。
 
〇提出までには1、2週間あるが、毎日小テストもあり、その勉強も必要だ。
自宅で取りかかるのは早くても提出の2、3日前。徹夜で作ることもある。
「こういった『パフォーマンス課題』は一つひとつが重い。重なると全く時間が足りない」
 
〇東京都立高2年の女子生徒は、グループワークの宿題が科目によっては毎週出される。
英語では、SDGsなどについて、クラスメートと調べたり考えをまとめたりして1週間後に英語でグループ発表する宿題が出る。
動画に撮って提出する時もある。共同作業をする5人の予定が合うのは、午後11時〜午前1時ごろ。
インターネット通話を使って準備をすすめる。
ほかの宿題も全て終わって床に就くと、深夜2時を回る。
 
〇入学前に想像していた、放課後に友だちとお茶をするような生活はない。
「早く帰って宿題をしないと」と焦る日々だ。
「同級生たちは『終わらない』と言いながら、宿題の量に文句は言わない。
だから、宿題が終わらない時は、効率よくできない自分が悪いと思ってしまう」
 
〇都内の私立中高一貫校に通う中学3年の男子生徒は、理科の実験が終わるたびにリポートの宿題が出る。
実験のやり方が書かれたプリントの内容を図を含めて写し、自分の考察を加えてまとめる。
プリントは、B4サイズの裏表1枚。リポートづくりだけで2時間以上かかることもある。
 
〇ベネッセ教育総合研究所が2021年、中学校教員2264人に宿題の内容を聞いたところ、
最多は「学校指定の副教材、問題集」で87%(前年比1ポイント増)だったが、
「作文やリポート」は43%(前年比14ポイント増)、
「調べ学習」は38%(前年比17ポイント増)で大幅に増えた=グラフ。
報告書は「ICT端末の整備や、新学習指導要領の全面実施が宿題の質に影響している」とする。
 
〇新学習指導要領は小学校は20年度から、中学校は21年度から全面実施され、高校は22年度の1年生から導入された。
自ら考える力を養う「探究的な学び」を重視するのが特徴だ。
また、小中学校ではコロナ禍の21年度から、
1人1台の端末を配備する国の「GIGAスクール構想」が本格的に始まった。
(中略)
 
〇ある都立高校の校長は
「確かにリポートにまとめたり、調べたりする宿題は増えている」と話す。
学習指導要領が変わり、探究学習が求められるようになった。
その結果、プレゼンテーションや論文提出を行う授業も増えたという。
 
〇しかし、「探究を深めるためには知識も重要だ」と指摘する。
従来の知識を学ぶことをおざなりにするわけにもいかないため、
結果、これまでの宿題の量に探究学習の宿題が加わり、
「生徒の負担感が増しているかもしれない」と言う。

https://www.asahi.com/articles/ASR585T1SR51UTIL03J.html

◇今回の記事を読んで、高校生も大変だなと感じた。
私の時代(今から約40年前)も、受験競争だの受験地獄だと世間は騒いでいたが、
結局、それほど管理されることもなく高校3年生になり、大学受験に臨んでいった。
高校生になったら、自分で考えてしろ!と高校の先生は言うだけだった。
その結果は、自分自身で受け止めるだけのことだった。

◇それが今、学校側が、高校生の主体性を引き出すように、
ということは、ある種、お膳立てをして、
それを強制ではない、と言いつつも強制として行っているような状況だ。
果たして、何パーセントの高校生が、大人になっても探究をし続け、
または、探究型の思考で、生きていくのか。

◇私は、非常に疑問なのだ。
学校でこのようなことをして、本当に効果があるのか。
何パーセントかの生徒には効果があるだろうが、
残りの大半の生徒には、何も効果がないのではないか。
それよりは、基本的な知識をしっかり教えるほうが、
その先の社会人になった時には、有益なのではないか。

◇社会のルールを守り、その社会のルールに従って生き、
そのルールが不都合な時には、変更しなければならないと思えるような人間になってくれれば、
探究が出来なくてもよいのではないか。
一部の人間に恩恵を与えるような学校教育でよいのか。
そう思うのだが、どうだろうか。
教育界は、「探究」という言葉に操られていないかと思うのだ。