子どもたちの学力は何を反映するか

小6と中3の学力スコア低下、識者「深刻な結果」 国の経年変化分析(朝日聞7月31日)

 子どもの学力の変化をみる国の「経年変化分析調査」(2024年度)の結果が31日、公表された。前回(2021年度)より全教科で成績が下がった。文部科学省は「継続的な分析が必要」と慎重だが、下げ幅が大きく、識者や省内に「深刻な結果」との認識も広がる。

 調査は、全国で抽出された小学6年(約3万人)と中学3年(約7万人)の結果を調べた。教科は、小6が国語と算数、中3は国語と数学と英語。2013年度から原則3年ごとに実施する。
毎年の全国学力調査と違ってほぼ同じ問題(非公表)を出し、2016年度以降の3回分が比較可能という。
 
 今回の結果(500を基準とするスコアで表示)は、平均スコアが、小6=国語489.9(前回比15.9ポイント減)、算数486.3(同20.9ポイント減)▽中3=国語499.0(同12.7ポイント減)、数学503.0(同8.0ポイント減)、英語478.2(同22.9ポイント減)。前回は、下がった教科はなかった。
文科省は「長期的視点が必要」として2016年度と比較分析する。それでも、中3数学以外は下がっていた。

 成績が下がった要因について文科省は「明確には示せない」とする。ただ、中学英語はコロナ禍が影響した可能性を挙げた。中3生は小学校で外国語を習い始めた時期がコロナ禍と重なる。「小学校はコミュニケーション重視の指導だが『話すこと』が積極的にできなかった影響」とみる。
 
 ある文科省幹部は「こんなに有意に下がったことはない。深刻だ」と明かす。学力に関する文科省の専門家会議に長く関わる耳塚寛明・お茶の水女子大名誉教授(教育社会学)は「驚いた。要因は複合的で、一つずつ確認する作業が必要」と指摘した。
 
 保護者への質問調査もあった。結果によると、子どもがゲームやスマートフォンを使う時間が前回より増え、学校外の勉強時間が減っていた。子どもが良い成績をとることにこだわらない保護者も増えていた。
 
 同時にあった保護者の調査では、子どもの生活の変化が見えてきた。まず、学校外の勉強時間が減っていた。塾なども含む平日の勉強時間は、小学6年が1時間3分(前回比6分減)、中学3年が1時間23分(同11分減)。勉強時間が長いほど、成績は高い傾向だった。
 
 同様の結果は、毎年の全国学力調査でも表れている。今年の学力調査時のアンケートでは、「平日に学校外で1時間以上勉強する」は小6で54.3%、中3で61.7%。2021年度より8.5〜14.1ポイント下がっていた。勉強時間に代わって増えたのが、ゲームやスマートフォンの時間だ。(中略)
 
 文科省は、親の所得や学歴などの要素(社会経済的背景=SES)とスコアの関係についても分析した。その結果、SESが低い層で特にスコアの低下が目立つ、という見方を示した。
 
 調査では「家にある本の冊数」をSESを表す指標とし、0〜25冊、26〜100冊、101冊以上の三つの層に分け、前回21年度の調査と比べた。その結果、「0〜25冊」層は、小学国語・算数と中学国語・数学でスコアが10〜18ポイントほど下がっていた。教科別の下がり方は、「26〜100冊」層の1.5〜4.5倍だった。中学英語は、三つの層のいずれも16〜20ポイントほど前回より下がっていた。(略) 

https://www.asahi.com/articles/AST700TFKT70UTIL016M.html

 前回に続き、子どもたちの学力について取り上げた。前回は、教科書が子どもたちを疎外する指摘の記事を取り上げたが、今回は、学力調査の経年比較だ。予想通り、子どもたちの学力は、落ちている。
前回も指摘しておいたが、学習指導要領が大きな原因であることは間違いない。そして、親の教育に対する期待感のなさ、子どもを取り巻くデジタル環境の更なる商業化。これからが相まって、子どもたちの学力は、どんどん落ちていくのではないか。

 さらに、記事の中で気になったのが、親の社会経済的背景の影響だ。
今まで日本の教育は、親の社会経済的背景がそれほど大きく学力差に影響を与えないといわれてきたし、実際そのような調査結果だったが、学校教育の劣化でとうとう、学力形成に影響を与えるようになってしまった。親の子どもに対する投資意欲の差が、子どもたちの学力差にそのまま反映するようになってしまった。
以前からそういう傾向ではあったが、学校教育がしっかりしていた時代は、学力の下支えがなされ、低学力層の子どもたちにもある程度の支援が与えられていた。しかし、それがなくなってしまった。そして、その帰結として、子どもたちの学力分断が起こっていくことになる。

義務教育の結果が、学力分断で終わるようではダメだ。それは、未来の社会の分断を意味するからだ。
子どもたちの学力は、未来の社会の秩序形成に大きな影響を持つ。その学力が分断されていけば、日本社会の秩序は大きく崩れ、安全な国ではなくなってしまう。子どもたちの学力とは、社会の基盤を作る重要な社会的インフラなのだ。

一般社団法人日本教育コンサルタント協会
代表理事 中土井鉄信